2025年7月18日(金) 人の力

人の力

近年の人手不足を背景に、世の中の様々な分野で「無人化」が進んでいます。

Mさんが、仕事帰りに夕食の食材を買うため、二軒のお店に立ち寄った時のことです。その日は家路を急いでいたため、初めていく店で買い物をしました。

一軒目で、馴染みの店とは勝手が違うレジに戸惑っていると、そこには店員はいるものの、自分で精算を行なうタイプのレジでした。

あわてて精算を済ませると、店員の視線は既に後ろに並ぶ人に向かっています。「次の方どうぞ」という声がMさんの顔越しに素通りしていったのでした。

もう一軒の店も同じようなセルフレジでしたが、精算の各段階で店員が説明してくれます。最後に、精算を終えると顔を見て丁寧に挨拶してくれたのです。

レジを離れる際、Mさんが、丁寧に対応してくれた店員の名札を見ると、小さく「研修中」と書いてありました。

Mさんは、新人の頃の自分にもあった愚直な姿勢や、一生懸命さが仕事に慣れる中で薄れかけていたことを強く感じたのでした。

今日の心がけ◆人とのつながりを大切にしましょう

出典:職場の教養7月号

感想

この話は、テクノロジーの進化と人間らしさの価値を対比させながら、「人の力」が持つ温かさや意味を再認識させてくれました。

無人化やセルフレジといった効率重視の流れの中で、あえて人と人との関わりが光を放つ瞬間に焦点を当てた構成が、非常に印象的です。

Mさんが感じた「視線が自分を通り越して次の客に向いていた」という体験は、単に機械的な対応以上に、無視されたような疎外感すら呼び起こす描写でした。

その一方で、研修中の店員の一言や丁寧な視線、最後の挨拶には、ほんの一瞬でも心が通い合うような豊かさがあり、そこに「人の力」の本質が現れているように思います。

今日の心がけにある「人とのつながりを大切にしましょう」という言葉が、この話の核心をしっかりと支えていて、日々の中で忘れがちな小さな心配りの価値を丁寧に思い出させてくれます。

効率や利便性の中に埋もれがちな「人間らしさ」を、私たち自身が意識的に育てていく必要があるのだと、静かに語りかけてくるような一編でした。

否定的な感想

この話は、人とのつながりを大切にすることの意義を強調していますが、やや理想化された人物像や状況に依存している印象もあります。

特に、「研修中の店員」が優しく丁寧だったことを、人間らしさの象徴として描く一方で、他の店の店員を「機械的」として一括りにしてしまうような描写には、若干の偏りを感じました。

無人化やセルフレジの導入は、必ずしも「人の温もりを奪うもの」とは限らず、忙しい現代における選択肢の一つであるべきです。

また、たまたま対応が良かった研修中の店員が、将来にわたって同じ姿勢を維持できるかどうかも不確かで、ここで理想の存在として描くことには少しの危うさも伴います。

さらに、Mさんの気づきが「昔の自分を思い出す」という内省にとどまっており、その気づきが今後どう行動に変わっていくのかが描かれていない点も惜しいです。

感情的な共感は呼び起こされるものの、読み手としてはやや物足りなさを覚える余地も残りました。