月桃
五月から六月にかけて、九州南部や沖縄では月桃(げっとう)が開花の時期を迎えます。
ショウガ科の月桃は、甘く強い香りが特徴で、花の形状は蘭に似ており、花弁の中央の一枚が大きく、ふちにフリルのようなひだがあります。
月桃の葉からは精油や蒸留水が得られ、石けんやシャンプー、化粧品、エッセンシャルオイルなどの日用品に活用されています。
抗菌・防腐作用もあることから、沖縄県では、味付けした餅をその葉に包んで蒸し上げる「ムーチー」としても親しまれています。その独特な甘い香りのついた餅は、今も郷土料理として受け継がれています。
また、沖縄県の本土復帰十年にあたる年に作詞・作曲された「月桃」は、県内の学校などで歌われており、沖縄戦で亡くなった人々を慰霊し、戦争を二度と起こさないという思いが歌い継がれています。
各地に自生する植物に関心をもつことは、時代を超えて、その土地に住む人と心を通わせる機会につながるはずです。
今日の心がけ◆郷土の植物に親しみましょう
出典:職場の教養6月号
感想
月桃の持つ香りや形状、そしてそれが日用品や郷土料理、さらには慰霊の歌にまで結びついているという多面的な存在感に深い感銘を受けました。
特に「ムーチー」という餅に葉を用いる風習には、植物と人間の暮らしの自然な調和が感じられ、香りが味覚や記憶と繋がることで文化が形成されていく様子がとても興味深いです。
自然の恵みを単に消費するのではなく、敬意をもって受け入れている沖縄の文化には、現代の利便性を重視する私たちが見習うべき姿勢があると感じます。
また、「月桃」という歌が、戦争の記憶と平和への願いを子どもたちに伝える手段として生き続けていることに、植物が持つ象徴的な力を思い知らされました。
花が咲くという一見当たり前の現象が、歴史や人の思いと結びつくことで、時間を超えた連帯感を生み出す。それはとても静かでありながら力強い表現だと思います。
「郷土の植物に親しむ」という今日の心がけは、自然への愛情とともに、人と土地のつながりを深める第一歩としてとても意義深いものに思えます。
否定的な感想
こうした郷土植物の紹介が、美化されすぎて実際の現代の人々の関心とは乖離しているようにも感じました。
たとえば、都市部では月桃という植物の存在をそもそも知らない人が多く、日常生活の中で「親しむ」ことが現実的に難しいケースもあるでしょう。
伝統文化や郷土の植物を語るとき、どうしても過去の美しさや郷愁に引っ張られがちですが、現在との接続をもっと意識しないと、それは単なる「懐かしさの押し売り」になってしまう危険もあると思います。
また、植物の香りや効能ばかりに注目が集まりすぎて、その背景にある農業の担い手不足や気候変動による育成環境の変化など、より根本的な課題には触れられていない点も物足りなさを感じました。
月桃という一つの植物を切り口にするならば、それを取り巻く地域社会の今もきちんと見据えた上で、どのように未来に継承していけるのかという視点も加えて語られてほしかったと思います。