2025年6月9日(月) お客様の思い

お客様の思い

A氏は、素材の良さをそのまま活かし、自然の調味料だけでハムを作っています。その素朴な味わいが好評で、店頭に並ぶと瞬く間に売れていきます。

この商品は、数年の研究期間を経て、試行錯誤を繰り返しながらようやく完成しましたが、商品開発のきっかけはあるお客様の言葉でした。

ある日、一人の女性客が来店し「こちらのハムの塩分量はどれらいですか」と尋ねてきました。

A氏が「どうして塩分量を知りたいのですか」と逆に質問すると、そのお客様の家族が透析治療中で、一日の塩分摂取量が制限されていることを知りました。塩分量を考えるとハムもわずかな量しか食べられなかったのです。

そこでA氏は、塩分量を抑えたハムを作る約束をしました。そして、完成したハムを食べてみると、これまでにない素材の旨みが口の中に広がりました。A氏はこのハムをメインの商品にすることを決意したのです。

目の前のお客様のために、何ができるのか真心で考えたいものです。

今日の心がけ◆最善を尽くしましょう

出典:職場の教養6月号

感想

この話からは、A氏の誠実さと、お客様への深い思いやりが強く伝わってきます。

ビジネスでありながらも、目の前の一人の声に真摯に耳を傾け、それを商品開発へと昇華させる姿勢には、深い感銘を受けます。

特に「どうして塩分量を知りたいのですか」という問いかけが印象的で、そこにA氏の人間味と、表面的なやりとりを超えた本質への関心がにじみ出ています。

ハムという一見シンプルな商品にも、思いや工夫が凝縮されており、完成までの数年間の試行錯誤には、たとえ話には語られていなくとも、苦労と粘り強さがあったことが容易に想像できます。

最終的に素材の旨みを最大限に活かすという到達点に至ったことも、自然志向の時代背景にマッチしていて、まさに今の時代に求められる姿勢と言えるでしょう。

今日の心がけにある「最善を尽くしましょう」という言葉も、この話とぴたりと重なります。

A氏の行動そのものが、最善を尽くすことの尊さと可能性を実証しており、自分の仕事や日常にも生かしたくなる力強さを感じました。

否定的な感想

この話のなかには、やや美談に寄りすぎた印象も否めません。

確かにA氏の行動は素晴らしいものですが、現実にはすべての顧客の声に応えることは容易ではなく、それができる環境や資源を持っていたからこそ可能だったとも言えるでしょう。

この物語が、まるですべてのビジネスパーソンに同様の姿勢を求めるように読める点には、若干の窮屈さを感じました。

また、塩分を抑える工夫が具体的にどのように実現されたのか、その過程が省略されているため、真摯な努力というよりも結果だけが美しく描かれている印象もあります。

顧客への誠実さを表現するには、苦労の過程や失敗、葛藤ももう少し見せてくれた方が、人間らしさや共感を呼びやすいと感じました。

「最善を尽くす」ことの意義を伝えるには十分な話ですが、それが必ずしも万人に可能なわけではないという現実へのまなざしも、もう少し加えられると、より立体的なメッセージになったのではないかと思います。