授業参観
ある日、Yさんは子供の授業参観に行きました。そこで行なわれていたのは道徳の授業で、児童たちにある物語についてどう考えるかを問いかける内容でした。
物語は、親友のS子から絵ハガキが届いたことから始まります。嬉しい気持ちも束の間、郵便局員から切手の料金不足を伝えられました。物語の主人公は不足料金を支払い、返信を書く時にそのことを伝えるべきかどうか悩みました。
授業では、児童たちにどちらを選ぶか考え、理由を述べる時間が設けられました。「伝えない」という立場の児童は「友達との関係が悪くなる」と答え、「伝える」という立場の児童は「同じことを繰り返さないため」と答えていました。
参観していたYさんは「数十円程度の不足だからいいだろう」と考えていた自分が、結果として、自分本位の考え方に至っていたことに気づかされました。同時に、金額の多寡にかかわらず相手の立場を考える大切さを教えられたのでした。
授業の終盤、主人公が〈親友のS子ならきっとわかってくれる〉と思いながらお礼のハガキを書き始めたという先生の朗読に、Yさんは共感したのでした。
今日の心がけ◆相手の立場を考えて行動しましょう
出典：職場の教養6月号
感想
この話には、日常の中に潜む倫理的な選択と、それを通じて得られる人間関係の深まりが描かれていて、とても印象に残りました。
特に、「数十円程度の不足だからいいだろう」というYさんの初期の反応が、私自身の姿とも重なり、思わずハッとさせられました。
私たちはつい、問題の大小を金額や手間で測りがちですが、この授業を通じて、子供たちが「相手の立場を思いやることの本質」に触れていたことが、何より心に響きました。
また、最後の「親友のS子ならきっとわかってくれる」という主人公の想いは、単なる友情ではなく、信頼や誠意といった人と人との関係において最も大切な要素を感じさせます。
こうした価値観が子どもたちに丁寧に語られ、共有される授業の場があることは、とても希望に満ちたことだと思います。
今日の心がけにある「相手の立場を考えて行動しましょう」という言葉は、こうした授業で得られた気づきを日常に持ち帰るための鍵のようにも感じられ、心に深く残りました。
否定的な感想
少し気になったのは、この授業の進め方が、やや「模範的な答え」を導く方向に寄っていたのではないかという点です。
子どもたちの意見はどれも素晴らしいものでしたが、「関係が悪くなるから伝えない」「繰り返さないために伝える」といった意見が、どこか答えとして整いすぎていて、子どもたちの本音よりも「良い子の答え」に傾いていた印象も受けました。
また、S子への返信を「きっとわかってくれる」という希望で締めくくるのも美しい反面、現実には言葉の選び方一つで誤解が生まれたり、関係がこじれることもあると思います。
そうした複雑な現実をもう少し丁寧に扱う余地があれば、より深い学びになったかもしれません。
「今日の心がけ」が示すように、相手の立場を考えるのは大切ですが、そのためには「正しさ」だけでなく、「言葉の使い方」や「伝えるタイミング」も重要であることを、もっと踏み込んで伝えるべきだったのではないかという思いも残りました。