恩師に教えられた言葉
かつてKさんは、就職について相談するため、高校時代の恩師を訪ねました。そして十年が経った今も、恩師の言葉を胸に刻みながら仕事に取り組んでいます。
恩師は、Kさんの話を一通り聞いた後で、「これは、私と縁のあった生徒皆に望んでいることだが・・・」と前置きしながら、「どんな職業に就こうとも大切なのは、他の人が嫌がることを、進んで引き受ける心で働くことだ」と言ったのです。
しばらくして、Kさんがお礼を述べて帰ろうとしたとき、「だれもやらないから自分がする、というのは愛だと思う。君にも、そのような愛を持って働く人間になってほしい」と恩師は付け加えたのでした。
恩師からは、企業や職種についての具体的な助言はありませんでした。しかしKさんは今も、仕事に向き合う姿勢だけでなく、人が生きていく上で大切にすべき心構えを教えられたという実感を、強く抱いています。
そしてこれからも、恩師に教えられた愛こそが、職場や社会、家庭をより良くしていく力の一つであるという信念を持って、働いていこうと心に決めています。
今日の心がけ◆豊かな愛情を育みましょう
出典：職場の教養10月号
感想
この話には、人生における「指針」となる言葉が、どれほど人の心に深く根を下ろし続けるかが静かに語られていて、胸を打たれました
。恩師がKさんに伝えた「だれもやらないから自分がする、というのは愛だと思う」という言葉には、押しつけがましさや理想論を超えた、実践的な優しさと誇りが感じられます。
それは、華やかで目立つ行動ではなく、むしろ地味で気づかれにくい働きを、静かに担う人間の尊さを教えてくれる言葉でもあります。
「職業の選び方」ではなく、「どんな職業にあっても貫ける心のあり方」を伝えるという姿勢には、教育者としての真摯さがにじんでおり、Kさんが十年経っても忘れずに胸に刻んでいるのも頷けます。
このような愛情ある言葉に触れた人が、社会の中で静かに温もりを広げていく姿こそ、今日の心がけ「豊かな愛情を育みましょう」の真意ではないでしょうか。
否定的な感想
この話に感じたのは、「愛」を実践することの難しさについて、もう少し踏み込んでもよかったのではないかという点です。
「誰もやらないから自分がする」という行動は、確かに尊いものですが、それが職場の中で“便利な人”として扱われたり、自己犠牲が常態化してしまったりするリスクもあります。
愛という名のもとに、無理を重ねてしまうケースが現実には少なくありません。
また、恩師の言葉は非常に理想的ですが、その言葉を受け取る側の状況や性格によっては、プレッシャーや重荷になる可能性もあります。
とくに若い人や、まだ自己肯定感が十分でない人にとっては、「自分がやらなければならない」という責任感が苦しみに変わってしまうこともあるでしょう。
愛とは本来、相手を自由にするものであるはずです。そうした“健やかな愛の実践”という視点も添えられていれば、さらに深みのある話になったのではないかと感じました。
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