過去の自分
チームで仕事をするには、お互いの協力が不可欠ですが、中には自己中心的に振る舞うメンバーもいるかもしれません。そのような時、思わず正論で説き伏せようとしてしまいがちですが、人は必ずしも正論では動きません。
Yさんには、受験を控えた息子がいますが、息子は家にいる時、スマートフォンの動画の視聴やゲームをするばかりで勉強をしている様子がありません。
ある日、耐えかねたYさんが息子を注意すると、「お父さんは子供の頃、ちゃんと勉強していたの」と返され、言葉に詰まってしまいました。
振り返ればYさんも学生の時、勉強せずによく親に叱られていたのです。いかに自分のことを棚に上げて注意していたのかを反省しました。
職場において部下や後輩を指導することもあるでしょう。そのような時には、自分の過去を顧みると相手の気持ちが理解でき、言い方も変わるはずです。
言葉の説得力は日頃の自分の行動から生まれます。人を正そうと思う時、まずは自分を振り返ると共に、自身の襟も正したいものです。
今日の心がけ◆相手の気持ちを理解するよう努めましょう
出典:職場の教養7月号
感想
この話は、人を動かすのに「正論」だけでは不十分であることを実感させてくれます。
Yさんのエピソードは、私たちがよく陥りがちな「自分の過去を棚に上げた正論」の危うさを、身近でリアルな場面を通して描いており、深く心に響きました。
特に、親子の会話で一瞬にして立場が逆転する場面は、説得しようとしていた側が、自らの過去の曖昧さに直面する瞬間であり、強い共感を呼びます。
職場でも同様で、自分の言動が伴わないままに指導しても、心には届かないという戒めが、非常に説得力を持って語られています。
今日の心がけにある「相手の気持ちを理解するよう努めましょう」という言葉は、ただのスローガンではなく、日常の中で自分自身を見つめ直し、他者への接し方を根本から変える力を持っていると感じます。
共感と自己反省が、信頼を築く第一歩なのだと、あらためて思い知らされる内容でした。
否定的な感想
この話が提示する「過去を顧みることで相手の気持ちが理解できる」という考え方には、一部疑問も残ります。
確かに自己反省は重要ですが、それだけでは他者との対話や関係構築の問題がすべて解決するわけではありません。
人の感情や反応は、論理や過去の経験だけで整理できるほど単純ではなく、ときには過去の体験を共有することが、かえって説得力を損なう場合もあるでしょう。
また、子どもが「お父さんは子供の頃どうだったの?」と問うた時、Yさんが言葉に詰まってしまう姿は、少し消極的に映ります。
過去の自分と向き合った結果、言葉を失うのではなく、自分の経験を正直に語りつつ、なぜ今そのような言葉をかけたのかを丁寧に伝えることが、信頼のある親子関係や職場の関係につながるのではないでしょうか。
「言葉の説得力は日頃の行動から生まれる」という結びに対しても、それが単なる理想論に終わらないよう、もっと具体的な実践例があれば、さらに深みが出たように感じます。