言えない理由
最近、部長のA氏は職場で部下の一人の態度に悩んでいます。
その部下は仕事はよくできるものの、挨拶や返事といった基本的な行動ができず、周囲も見て見ぬふりをしているため、職場の雰囲気が悪化していました。本来なら上司としてすぐに注意すべきですが、A氏は躊躇してしまうのです。
ある日、同期入社の同僚と久しぶりに食事をする機会があり、A氏は悩みを打ち明けました。すると同僚は、「気持ちはよくわかるよ。でも、躊躇するのは、自分に問題があるんじゃないの?」とさらりと言いました。
慰めてもらえると思っていたA氏は、何かあしらわれたような感じを覚え、暗い気持ちになりました。
帰り際、同僚が「自分が変わらないと何も変わらないよな」とポツリと発した言葉がA氏の胸に深く突き刺さりました。
A氏は、嫌われたくないという気持ちが躊躇する姿勢として表われていたことを反省し、これからは率先して伝えていこうと決意したのです。
今日の心がけ◆行動に移しましょう
出典:職場の教養7月号
感想
この話の中で最も心に残ったのは、A氏が自分の弱さに気づき、変わろうと決意した瞬間です。
職場での人間関係、とくに上司と部下の間には微妙な感情や立場の違いが存在し、言うべきことを言えないという葛藤は、多くの人が共感できることでしょう。
A氏のように、単に部下の態度を問題視するだけでなく、自分の躊躇の根っこにある「嫌われたくない」という感情を見つめ直す姿勢には、誠実さと内省の深さがにじみ出ています。
特に、「自分が変わらないと何も変わらないよな」という同僚の一言は、日常の中で私たちが見落としがちな真理を突いています。
他人を変えるよりもまず自分が変わる。
その覚悟が、何よりも強い行動力の源になるのだと感じさせられました。
今日の心がけ「行動に移しましょう」との結びつきも非常に強く、A氏の決意がまさにその実践の第一歩であることに胸を打たれます。
否定的な感想
この話においては、部下の態度に対する職場全体の対応、そしてA氏の上司としての責任感のあり方について、やや物足りなさも感じました。
A氏の躊躇は人間的な感情として理解できますが、部下の非礼が職場の雰囲気にまで悪影響を及ぼしているという状況を放置していたことは、管理職としての職務放棄に近いとも言えます。
また、同僚の言葉に救いを見出すのではなく、一瞬あしらわれたように感じてしまうA氏の受け取り方も、やや自己中心的に映りました。
本質的には、部下の態度の問題ではなく、A氏自身の対人関係における不安や恐れが原因であり、それを認識するまでに職場環境が悪化するのを放置していたのは問題です。
「今日の心がけ」が示すように、行動が遅れれば遅れるほど、周囲にも悪影響が広がってしまうのだという現実に、もっと早く気づくべきだったのではないかと考えさせられました。