成功と成長
イベント会社に務めるAさんは、小学生を対象としたイベントに携わりました。
今回は秋の連休に、全国から五十名ほどの小学生を募り、各学年混合の七名のメンバーでチームを編成し、山登りや屋内で体を使った競技に挑戦しました。
イベントの目的は、困難なことにチャレンジして、自信をつけてもらうことです。Aさんは、ある児童がチームで行なうボール競技に取り組んだ結果、僅差で敗れて、号泣する姿を目にして気づいたことがありました。
チームの目的が「優勝(成功)」であれば、そのチームは失敗したと言えるかもしれません。しかし、チームの目的を「個々の成長」と捉えるならば、皆で努力したすべてのプロセスには意味があったということになります。
しかもそれは、号泣した児童や他のメンバーの人生の糧になり、自信につながることにAさんは気づいたのです。
〈今、自分は懸命に仕事に取り組んでいるだろうか〉と自問したAさんは、改めて初心に返り、自己の成長を意識しながら仕事に向き合おうと決意したのでした。
今日の心がけ◆仕事を通して成長しましょう
出典：職場の教養11月号
感想
この話は、「成功」と「成長」という概念の違いをとても端的に、しかも感情的な瞬間を通じて描いている点に深く心を動かされました。
特に、号泣する児童の姿を目にしたAさんが、勝敗だけでなく、その過程にどれほどの価値があるかを理解する場面は印象的でした。
成功を結果としてのみ捉えるのではなく、その過程にある努力や葛藤、失敗の中でこそ人は最も大きく成長するのだというメッセージは、教育や仕事、さらには人生そのものに通じる普遍的な真理です。
Aさんが自身の仕事を振り返り、「成長」という尺度を新たに見出した姿勢は、社会人として非常に誠実であり、また謙虚です。
自分の仕事にどれほどの熱意や意味を見出せているかを問い直す行為は、決して容易なことではありません。
けれども、そうした内省が、よりよい仕事への第一歩となることを、このエピソードは教えてくれています。
「今日の心がけ」にあるように、ただ業務をこなすのではなく、その中で自分自身が何を学び、どう変化していくのかを意識することが、結局は長い目で見た「成功」につながるのだと感じさせられました。
否定的な感想
この話の中には少しだけ気になる部分もありました。
それは、感情的な場面—つまり児童の号泣—を成長や学びのきっかけとしてやや美化してしまっているようにも読める点です。
もちろん、感情の爆発は大切な経験ですが、子どもにとってはそれがトラウマや敗北感として深く残ることもあります。
「成長」としてまとめるには、その後のケアやフォローが必要なのではないかという思いが拭えませんでした。
また、目的を「成功」から「成長」へと転換する視点は理想的ですが、それはあくまで後からの解釈であって、イベントの設計自体がその視点を持っていなかったとすれば、それは少し無責任とも言えます。
競争形式をとる以上、勝敗がつくことは避けられず、それが子どもに与える影響についてもっと慎重に考える必要があったのではないでしょうか。
Aさんの気づきは素晴らしいものですが、それを「成長物語」として完結させるのではなく、もっと現場の子どもたちの声や心の動きにも目を向ける必要があると感じました。
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