両親の笑顔
忙しい日々が続く中でも、時には親やお世話になった人が喜ぶことに時間を使うことも、意味のあることではないでしょうか。
K氏は連休を利用して、自宅から遠く離れた郷里の地を訪れました。久しぶりに両親の顔を見て、喜びと同時に、親が年齢を重ねていることを実感しました。
そこで「何か手伝うことはある?」と聞いたところ、庭木の剪定と家の外壁の洗浄を頼まれたのです。〈できるだけのことをしよう〉と、氏は決意しました。
初夏の昼間、汗だくになりながらも黙々と作業を進めました。父が脚立を使えなくなり伸びてしまった垣根を剪定したり、高圧洗浄機で汚れた外壁を洗いながら、親の手伝いができていない現状を自覚し、様々な思いが心に浮かびました。
作業をすべて終えた後、氏は夕食の食材を買いに店へ向かいました。七輪に炭を入れて火を起こし、軽く焦げ目のついた食材を両親に渡すと、「これまでの何よりもおいしい」と、うれしそうな両親の笑顔がそこにありました。
どんなにゆっくり過ごす休みよりも、心の原動力となる休日となったのです。
今日の心がけ◆笑顔を広げる行動をしましょう
出典：職場の教養11月号
感想
この話には、静かで力強い温かさが流れていて、深く心に沁みました。
K氏が親の老いを目の当たりにし、その現実から目を背けるのではなく、「できるだけのことをしよう」と行動に移した姿に、誠実な人間らしさを感じます。
単なる親孝行ではなく、「自分はこれまで十分に手伝えていなかった」と反省しながらも、今できることを惜しまずやろうとする姿勢に、時間の流れとともに深まる家族のつながりがにじみ出ています。
何より印象的なのは、作業後に囲んだ七輪での食事です。
高級なものではなく、汗をかいた後に家族で囲むささやかな焼き物が、「これまでの何よりもおいしい」と感じさせる。
これは単に味の問題ではなく、心の充足が味覚にまで影響を与えた瞬間だと思います。
どれだけ贅沢な旅や美食よりも、人のために動いた日が最も記憶に残るという事実は、私たちの価値観を優しく問い直してくれます。
「今日の心がけ」にある“笑顔を広げる行動”という言葉も、この物語を象徴するようです。
人を喜ばせることは時に自分の負担にもなりますが、そこで生まれる笑顔は、何よりも自分自身の心を潤すのだということを、改めて感じました。
否定的な感想
この話に違和感を抱く部分がないわけではありません。
まず、K氏の行動があまりにも模範的すぎて、少し美化されすぎている印象も受けます。
多くの人にとって、連休にわざわざ遠方の実家へ帰り、体力を使う作業をこなすことは、理想であっても現実にはなかなか難しい。
仕事や育児、心身の疲れ…さまざまな事情を抱える中で、「親のために行動すべき」という道徳的な圧力として感じてしまう人もいるかもしれません。
また、親の喜びや感謝が物語の中で非常に強調されていることで、逆にそれを得られなかった人にとっては疎外感を覚える可能性もあります。
親との関係が複雑だったり、距離を感じていたりする人にとっては、このような「心温まる交流」は遠い世界の出来事のように思えてしまうのです。
さらに言えば、「心の原動力となる休日」と表現されていることに、少しばかりの理想主義を感じます。
実際には、こうした行動をしても心身ともに疲れ果て、むしろストレスを感じることもあるはずです。
そのリアルな側面も描かれていれば、より共感を呼ぶ物語になったのではないかと感じました。
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