作品鑑賞
Sさんは、友人に誘われて書道教室に通い始めました。しばらくたった頃、教室の生徒皆で同じ課題を書き、それを鑑賞する機会がありました。
まずは先生にお手本を書いてもらい、筆の使い方や強弱の付け方などを教わってから、それぞれが課題に取り組みます。Sさんを含む生徒たちは、練習を重ね、何度も書き直しながら作品を完成させました。
その後の作品鑑賞の時間には、作品ごとに違う文字の太さや配置のバランス、筆運びがあることを知りました。十人十色の作品を鑑賞する中で、それぞれの作品の美しさを味わうことができたのです。
それまでは自分自身が稽古をして、文字をうまく書けるようになることばかりに心が向いていたSさん。しかし、様々な美しい作品に触れることで、作品鑑賞後は心もすっきりとして、仕事へのやる気が高まりました。
日常をせわしなく過ごす中で、書や名画、音楽などの芸術作品を鑑賞する時間をもつことで、日々の活力を高めたいものです。
今日の心がけ◆美しいものに触れましょう
出典:職場の教養5月号
感想
この話から感じた最も印象深い点は、「作品を鑑賞することで自分の内面が整えられ、活力が湧いてくる」というSさんの体験です。
書道の稽古というと、自分の技術を高めることに意識が向きがちですが、その先に「他者の表現を味わう」という世界が広がっていることに気づいたのは、とても豊かな学びだと思います。
Sさんが、ただ上手に書くことだけを目標とせず、他者の作品の中に美を見出し、それによって自分の心が整っていくというプロセスに至ったことは、芸術が持つ根源的な力を物語っているように思います。
また、「今日の心がけ」にあるように、日々の喧騒の中で美しいものに触れることが、精神のリズムを整えるためにいかに大切かが実感されます。
書や絵画、音楽といった芸術は、結果を求める日常の時間とは異なるリズムを持っており、そこに自分を委ねることで、心が軽くなったり、前向きなエネルギーが湧いてきたりする。
そのような時間を意識的に持つことの意義を、この話は優しく教えてくれているようです。
否定的な感想
この話には若干理想化された印象も否めません。
芸術鑑賞が心に与える良い影響は確かに存在しますが、現実には美しさを感じ取る感性を育てるには、それ相応の余白や経験が必要です。
Sさんがすんなりと作品の美しさに心を動かされているように描かれていますが、実際には「何が良いのか分からない」「自分の作品と比べて落ち込む」といった複雑な感情も出てくるのではないでしょうか。
特に、書道のような技術と表現の両面が問われる世界では、そのギャップに悩むことも少なくありません。
また、「美しいものに触れましょう」という今日の心がけは非常に抽象的で、人によっては具体的に何をすればいいのか分からないまま終わってしまう可能性もあります。
美しさに感動する力は、育まれていくものですから、もっと具体的に「どんな風に美に触れてみるか」といった提案があると、より多くの人が実践しやすくなるように思いました。