さらなる改良
Aさんは職場まで自転車で三十分ほどかけて通勤しています。
十五年前に働き始めた際、オンライン地図を見ながら経路を検討し、その後も実際に走ってはたまに修正を加える作業を続けてきました。その結果、ここ五年ほどは〈これ以上の良い経路はない〉と感じ、同じ道を使い続けていました。
ところが最近、途中の道路がふさがれてしまい、仕方なく新たな道を通ることになりました。Aさんは、やむを得ず迂回したつもりでしたが、意外にもその道の方がより快適に通勤できることが分かったのです。
その時、Aさんは〈完璧なルートだとは思っていたけど、まだ改良の余地があったのだなと感じたといいます。
自分では最適だと思っていても、どこかに見落としがあるかもしれません。また、環境や状況が変化することで、これまでの手法が通用しなくなったり、より良い選択肢が新たに生まれたりすることもあります。
現状に満足せず、時には見直して新たな可能性を探りたいものです。
今日の心がけ◆マンネリを避けましょう
出典:職場の教養5月号
感想
この話には、私たちが日常の中でいかに「慣れ」や「安心感」によって選択肢を閉ざしてしまうかが、静かに、しかし強く描かれています。
Aさんの通勤ルートに対する姿勢は、真面目さと継続力に溢れており、その努力が五年間の固定ルートに結実したのだと思います。
しかし、予期せぬ変化—今回で言えば道路の封鎖—が、皮肉にも「更なる快適さ」という成果をもたらした点に、人生の不確かさと可能性の広がりを感じました。
私たちはつい、今のやり方がベストだと信じ込み、それを疑わなくなりがちです。けれども環境は変わり続けており、その変化に目を向けることで、はじめて見える新しい景色がある。
Aさんの気づきは、「変化は怖くない、それどころか歓迎すべきことかもしれない」と教えてくれます。
この話を読むことで、日常の中で少し立ち止まって見直してみる勇気を持とうと思えました。
「今日の心がけ」にある「マンネリを避けましょう」という言葉が、この話全体を見事にまとめています。日々のルーティンにこそ、時折風穴を開けることが、豊かさへの道かもしれません。
否定的な感想
この話にはやや「結果的にうまくいった」という幸運な偶然に頼りすぎている印象も否めません。
Aさんが道路封鎖に直面したのは外的な強制力によるものであり、自発的な見直しや改善の意思があったわけではありません。
これはつまり、変化を自らの意志で選び取ったわけではなく、単に避けようのない状況に追い込まれたに過ぎないということです。
この視点から見ると、「変化を受け入れよう」とする教訓には説得力がやや欠けるとも言えます。
現実には、変化が必ずしも良い結果をもたらすとは限らず、不確実性やリスクも伴います。
その点を無視して、「変えてみたらよかった」という単純なメッセージに収束させるのは、やや楽観的すぎると感じました。
また、五年間も同じルートを疑わずに通っていたという事実も、変化への柔軟性を欠いた姿勢の象徴とも言えます。このような姿勢がもたらすリスクに対する警鐘が弱かったのは惜しいところです。
「今日の心がけ」にあるように、マンネリを避けるには、受動的ではなく能動的な態度が求められるのではないでしょうか。