苦手克服のために
営業部門に所属するJ氏は、英語に対して苦手意識を持っていました。
〈完璧に文法を覚えなければならない〉〈発音が間違っていたらどうしよう〉といった学生時代の不安が、苦手意識を加速させていたのです。
ある日、業務で海外に行くことになりました。空港や機内で英語の必要に迫られ、たどたどしくも簡単な単語で伝えました。すると、言葉が通じたのです。
少し自信がついたJ氏は、逆の立場をイメージしてみました。日本語が苦手な外国人が自分に話しかけてきた場合、たとえ完璧な文法や発音でなくても、相手の言葉や真意を理解しようと努めます。そう思うと苦手意識が薄れてきたのです。
それからJ氏は、さらなるレベルアップを目指して英語学習を始めました。完璧を求めず、楽しみながら続けることで、学習意欲も高まってきたのです。
他の場合でも、例えばプレゼンテーションが苦手な人は、身近な人の前など、まずは小規模の場で練習を重ねることで自信をつけることができます。
考えすぎずに、まずはやってみるということを大切にしたいものです。
今日の心がけ◆まずは一歩踏み出しましょう
出典:職場の教養6月号
感想
J氏のエピソードは、「まずやってみること」の力を実感させてくれる、とても共感を呼ぶ話でした。
苦手意識というのは多くの場合、実際の困難以上に心の中で肥大化しているものですが、J氏はその壁を自分の体験を通して崩していきました。
空港や機内という実践的な場面での英語使用は、完璧主義から解放されるきっかけとなり、「伝えること」の本質に気づかせてくれます。
言葉とは「完璧さ」よりも「意志を伝える手段」であるという気づきが、J氏の中で苦手を自信に変えていったのです。
また、自分が逆の立場になったときの想像力——日本語が拙い外国人に対してどう接するかを考えたことは、人としての思いやりと共感力の現れでもあります。
そこから苦手意識が和らいだというのは、自他を重ねることで視野が広がった好例です。「完璧を求めず、楽しむ」という姿勢も、すべての学びに通じる重要な態度です。
「今日の心がけ」にあるように、まず一歩踏み出す勇気が、未来を変えるきっかけになるという教訓は、多くの人の背中を押してくれる言葉です。
否定的な感想
この話における懸念点は、「まずやってみること」の強調が、場合によっては十分な準備や基礎の積み重ねを軽視するリスクもあるという点です。
たしかにJ氏のような体験を通じて自信を得るケースもありますが、全ての人がそううまく乗り越えられるわけではありません。
特に言語学習のように積み上げが必要なスキルでは、「やってみたけどダメだった」という失敗体験が、むしろ苦手意識を深めてしまうこともあるのです。
また、「完璧を求めず、楽しむ」ことが強調されすぎると、向上心の芽を摘んでしまう可能性もあります。
成長には楽しさだけでなく、ある程度の負荷やストレスも必要で、それを乗り越えてこそ得られる達成感もあります。
J氏の気づきは素晴らしいものですが、その背景には一歩踏み出す勇気だけでなく、ある程度の語彙力や文法知識が下地としてあった可能性もあるでしょう。
そこに触れずに「やればできる」とだけ伝えるのは、やや単純化が過ぎるようにも感じました。