2025年7月26日(土) うどんを科学する

うどんを科学する

秋田県横手市で手作りうどんの製造・販売を行なう株式会社眞壁屋の眞壁明吉良社長は、異色のキャリアを持っています。大学で科学を学び、大手通信技術企業に就職後、「粉の専門家」としてプリンターなどのトナー開発に携わりました。

その後、〈両親を助けたい〉という思いから帰郷し、眞壁屋を継ぐことを決意。自らの知識や経験を活かし、手作りうどんの技術を一から修得しました。

眞壁社長はうどん作りの過程で、市場に受け入れられている「うどん」には、作り手の徹底したこだわりと素材への愛着が必要であることを痛感します。

そこで、小麦粉の配合の研究を続けた結果、髪の毛よりも細かいミクロン単位の小麦粉を配合すると、自分が追い求めた食感になることを発見しました。

こうして完成したうどんは、乾麺でありながら生麺のようにしなやかでつるつるとした食感を持つものとなったのです。

眞壁社長は〈食を通して世界と地方とを結ぶ架け橋になりたい〉という思いを原動力に、科学の粋(すい)と職人の技を結集した手作りうどんを日々精製しています。

今日の心がけ◆仕事に情熱を込めましょう

出典:職場の教養7月号

感想

眞壁社長の歩みは、ただのキャリアチェンジではなく、「科学」と「食」という一見対極にある分野を融合させた、実に創造的で情熱的な挑戦に感じられます。

科学者としての厳密な視点を、伝統的な手作りうどんに応用するという発想は、まさに異分野融合の美しさを体現しています。

特に、ミクロン単位で小麦粉を調整し、乾麺でありながら生麺のような食感を生み出したという点に、理論と実践が一体化する瞬間の感動を覚えました。

また、「両親を助けたい」という思いから故郷に戻り、家業を継ぐという選択に、彼の人間性の温かさが滲んでいます。

単なるビジネス的成功ではなく、家族や地域との繋がりを大切にしながら、地方の価値を世界に届けようとする姿勢に、現代における新たなリーダー像が浮かび上がります。

今日の心がけにある「仕事に情熱を込めましょう」は、まさに眞壁社長の生き方を象徴しています。

知識や技術はもちろん大切ですが、それを支える根底には情熱がある――そのことを彼のうどん作りから深く実感しました。

否定的な感想

眞壁社長のように高度な専門知識を持ち、かつそれを実用に昇華できる人は、ごく限られた存在だとも感じました。

彼の成功例が「科学×伝統」の理想形として語られることは希望を与える一方で、逆に一般的な職人や後継者にとっては、ハードルを高く感じさせてしまうかもしれません。

「技術革新」は魅力的ですが、それが過度な競争やプレッシャーに繋がることもあるのではないかと思います。

また、乾麺でありながら生麺のような食感を目指す、という技術的な工夫は確かに面白いのですが、うどん本来の「手作り感」や「時間が生む味わい」を置き去りにしてしまう危険性もあります。

効率性や再現性が高まることで、逆に「偶然性」や「人の手が加わるからこそ生まれる揺らぎ」が失われるのではないかという懸念も拭えません。

「情熱」が技術や理論を凌駕する瞬間こそが、ものづくりの醍醐味だとすれば、科学の力であまりにも「正解」に近づきすぎると、どこかでその魔法が解けてしまう危うさも感じるのです。