触れる彫刻
彫刻家の重岡建治氏が今年二月に亡くなりました。
重岡氏は彫刻家の圓鍔勝三氏に弟子入りした後、イタリアの彫刻家、エミリオ・グレコ氏に師事しました。帰国後は、静岡県伊東市にアトリエを構え、午前三時からノミを持つほど彫刻に没頭したそうです。
全国の自治体、企業から依頼を受け、どんな人とも公平に付き合いました。看板や冊子の表紙など、専門外の仕事も決して断らなかったそうです。
重岡氏は「触れる彫刻」を目指しました。人が作品に触れることを考えて怪我をしないよう彫刻の角を丸くするなど、作品には思いが込められています。
きっかけは美術館で子供が彫刻に触って叱られていた姿でした。触っても壊れず、怪我をしない、強度のある作品を追い求めて作り続けていくうちに、自然と「人と人との絆」が創作のテーマになっていったといいます。
私たちも、未経験の仕事も喜んで受け止め、成長し、独自性を見出したいものです。その根底には、人に対する思いやりが欠かせないのです。
今日の心がけ◆思いを込めて仕事に取り組みましょう
出典：職場の教養6月号
感想
重岡建治氏の「触れる彫刻」という発想には、深い感動を覚えます。
彫刻という芸術が、本来は観るものであり、触れることが禁じられているという常識を覆し、触れることを前提に作るという姿勢は、芸術のあり方そのものを問うているように感じました。
特に、子どもが彫刻に触れて叱られている姿に心を動かされたというエピソードには、人間としての優しさがにじんでいます。
芸術を自己表現の手段としてではなく、「人と人との絆」を築く手段として捉えていた点に、重岡氏の真摯さと大きな視野を感じました。
また、専門外の仕事も断らなかったという姿勢には、自分の殻を破り、新しい領域に挑む勇気と誠実さが見えます。
それは、ただ器用だからできるのではなく、依頼する人の思いを大切に受け止める姿勢があるからこそです。
こうした姿勢は「思いを込めて仕事に取り組む」ことの本質を体現しており、今日の心がけに見事に結びついています。
技術以上に、作品に込められた思いが人の心を動かす。そんな仕事のあり方に深く共感しました。
否定的な感想
「触れる彫刻」という美しい理念の裏にある危うさも感じました。
芸術が物理的に「触れる」ことを許す時、それは作品としての繊細さや象徴性が損なわれるリスクも含んでいます。
本来、彫刻は視覚を通して心に訴えるものですが、触れることに重点を置くあまり、見る者の想像力を狭めてしまう可能性もあるのではないかと危惧しました。
例えば、作品の表面を意図的に荒々しく仕上げることで表現される痛みや怒りのような感情は、触れやすさを重視することで削がれてしまうのではないでしょうか。
また、専門外の仕事をすべて受け入れる姿勢には、自己の表現軸がぼやけてしまう危険性も感じます。
依頼者の希望に応えることは大切ですが、そればかりを優先してしまえば、芸術家としての独自性が薄れてしまうかもしれません。
誰とでも公平に付き合うことの裏には、自分を曲げてしまう場面もあったのではないかと想像します。
思いやりのある姿勢は尊敬に値しますが、時にそれが自己犠牲や疲弊につながってしまわなかったか、少し気になりました。