引っ越しの手伝い
Mさんは人事異動により、一家で県外に引っ越すことになりました。
この一カ月間、Mさんは夫婦で慌ただしく荷物をまとめています。 そうした様子を見て、三歳の長男も「僕もやる」と健気に手伝ってくれました。
業者にお願いする物品をのぞき、家電・衣類・本など、自分で梱包できるものは段ボールに入れ、品名を書いていきます。
いよいよ引っ越し当日を迎えました。 朝早くから作業員が来て、手際よく煮詰みをしていきます。 ものの数時間で全ての家財が搬出され、家の中は空っぽです。 Mさん一家は、最後にその室内を全員で清掃することにしました。
この場所で暮らすことができた感謝の気持ちを表すために、 家族みんなで清掃をしたかったのです。 Mさんは率先して雑巾がけをしました。
それに続いて、長男が笑顔で走るように雑巾掛けをする姿に、 Mさんは「大切なことを子供と共有していきたい」と心が温かくなりました。 そして、きれいになった家を後に、新天地へと向ったのでした。
今日の心がけ◆後始末をしっかり行いましょう
出典:職場の教養3月号
感想
この話には、家族の温かさと小さな日常の中にある美しさが丁寧に描かれていて、胸がじんとしました。
特に、三歳の長男が「僕もやる」と言って引っ越しの準備を手伝う姿や、最後に家族全員で清掃をする場面には、何気ないけれど深い意味があります。
ただ物を運ぶだけでなく、「この家で過ごせたことへの感謝」を込めて後始末をする姿勢は、とても日本的で、心に沁みる礼儀と敬意の形だと感じました。
Mさんの「大切なことを子供と共有していきたい」という思いには、親としての静かな決意と、日々の営みの中で子供に伝えたい価値観がにじんでいます。
何かを手伝わせることそのものよりも、「気持ちを込める」姿を一緒に体験することが、きっと子供の記憶に深く残るのでしょう。
「今日の心がけ」の「後始末をしっかり行いましょう」は、単に片付けを意味するのではなく、場所や出来事に対して心を込める態度そのものだと思います。
否定的な感想
この話には少し理想化されすぎた感も否めません。
引っ越しという大変な場面で、三歳の子供が終始手伝って、最後に家族で清掃まで…という流れは美しいものの、現実的にはなかなかそううまくはいかないことが多いでしょう。
疲れやイライラが募る中で、子供の手伝いが逆に手間になることもあり得ます。
そうしたリアルな葛藤がまったく描かれていないことで、読者によっては少し共感しづらいと感じるかもしれません。
また、「大切なことを子供と共有したい」という一文が、少し説明的に感じられました。
もちろんその思いは尊いものですが、それを読者に直接伝えるよりも、子供の表情や仕草、Mさんのまなざしなど、描写の中で自然ににじませた方が、余韻として心に残ったのではないかと思います。
全体的に美談として整いすぎていて、もっと混沌とした感情や、別れの寂しさなどの要素が描かれていたら、より深く響く物語になったのではないでしょうか。