2025年4月14日(月) 唯一無二の存在

唯一無二の存在

スポーツインストラクターとして働くMさんには八十八歳の母親がいます。

母親は長年一人暮らしをしていましたが、高齢で日常生活に支障が出るようになったため、Mさんは母親と同居することにしました。

ある日の夜、仕事から帰宅して自室に入ると、部屋が綺麗に掃除されていました。日中、母親がMさんの部屋を掃除していたのです。

了承もなく母親が部屋に入ったことにMさんは一瞬戸惑いましたが、高校生の時にも、同じような出来事があったことをふと思い出しました。

〈高校生の時も、大人になった今でも、母にとって私は子供のままなんだな〉と、いまだに子供扱いされていることをMさんは気恥ずかしく思いました。

一方で、大人になった現在でも、昔と変わらずに愛情を注いでくれる母親は、Mさんにとってかけがえのない唯一無二の大切な存在であることに思い至り、感謝の気持ちが深まっていったのでした。

Mさんは母親にできる限りの親孝行をしようと、思いを新たにしました。

今日の心がけ◆親への感謝を深めましょう

出典:職場の教養4月号

感想

この話から感じるのは、時間がどれだけ流れても変わらない親の愛情の強さと、それを受け取る子の心の成長です。

Mさんの「気恥ずかしさ」は、親の行為に対する小さな反発とともに、それをありがたいと感じる複雑な思いが交差している証でしょう。

それでも最終的には「唯一無二の存在」として母親を見つめ直すところに、親子のつながりの根深さと温かさが浮かび上がってきます。

何気ない日常の一コマの中に、過去と現在が交差し、記憶がやさしく心を包み込むような描写がとても印象的でした。

大人になっても、親にとっては子供のまま——この視点に、どこか懐かしさや安心感を覚える人も多いのではないでしょうか。

今、自分を育ててくれた人がそばにいることの意味を考え直し、親孝行を「しなければ」ではなく「したい」と思える気持ちの変化が、非常に丁寧に描かれていて心に響きました。

「今日の心がけ」にある「親への感謝を深めましょう」という言葉も、こうした具体的なエピソードとともに触れると、重みが増します。

ただの教訓ではなく、感情に根ざした行動への呼びかけとして感じられるのです。

否定的な感想

この話には少し美化された印象も拭えません。

無断で部屋に入って掃除をするという行為は、たとえ親であっても個人の尊重という観点からは疑問が残ります。

Mさんがその行動に対して怒ることなく、むしろ感謝へとつなげていく展開は理想的すぎて、現実の親子関係の多くが抱える摩擦や葛藤を見落としているようにも感じました。

また、「親孝行をしよう」という結びが、読者にとって道徳的なプレッシャーとなる可能性もあります。

親への感謝の気持ちは自然と湧き上がるものですが、義務感からの行動は心の負担になりかねません。

特に介護や同居といった生活の変化が伴う状況においては、理想と現実のギャップに苦しむ人も多いはずです。

そうした側面への言及がないことで、この話が抱える世界はやや狭く、現実との乖離を感じました。

もっとも、この物語は感謝の気持ちを呼び起こすという点では非常に力がありますが、その一方で、親子の関係が常に温かく穏やかなものであるという一面的な描写に留まってしまっているのは、少しもったいなく感じられました。