タイミング
「奇貨居くべし」は中国の故事成語で「得がたい好機を逃さず利用しなければならない」という意味です。
ある朝、Aさんが商店街を歩いていた時のことです。古書店の前を通ると、以前から探していた絶版の書籍が店頭に数冊並んでいるのに気がつきました。
外出先で重い本を買って持ち歩くのがためらわれ、そのまま通り過ぎようとしたAさんでしたが、「気づいた時に行動することが物事を上手く進めるコツ」と、以前、世話になっていた上司の言葉を思い出したのです。
Aさんは考え直してすぐに書籍を購入しました。仕事が終わり、帰りにもう一度、古書店を覗いてみると、その本は一冊も残っていなかったのです。
あの時すぐに行動していなかったら購入の機会を失っていたと感じたAさん。改めて気づきやチャンスを逃さずに行動する大切さを学んだのでした。
幸運は備えあるところに訪れるとも言います。日頃から機会は再び巡ってこないと心して、得がたい好機を逃さずにつかみ取っていきたいものです。
今日の心がけ◆気づきを大切にしましょう
出典:職場の教養4月号
感想
この話は、日常のさりげない一場面に潜む「チャンスの本質」を静かに、しかし力強く伝えてくれます。
Aさんがふと目にした絶版書の存在、それを一度はスルーしかけながらも、過去の教えを思い出して行動に移したこと——この流れに、人生の中で訪れるほんの一瞬の選択が、どれほど大きな意味を持つかが凝縮されています。
「奇貨居くべし」という言葉は、知識として知っていても、実際の行動に移せる人は少ないと思います。
Aさんはそのチャンスをしっかりと捉え、さらにその出来事から学びを得たという点で、非常に前向きで実践的な姿勢が光っています。
そして、「行動する勇気」は単なる思いつきではなく、過去の上司の言葉という“人とのつながり”に支えられているというのも深いです。
人の記憶や経験が、未来の選択を導く灯火になるのだと感じさせられました。
「今日の心がけ」である「気づきを大切にしましょう」も、単なる注意喚起に留まらず、「気づいた後にどうするか」の重要性をこの話が補完してくれているようで、心にストンと落ちる言葉でした。
日々の中にある一瞬一瞬の判断が、自分の未来を静かに変えていく——その真理に優しく背中を押されるような気持ちになりました。
否定的な感想
この話は美しくまとまりすぎていて、逆に少し現実感に欠ける印象も受けました。
Aさんが「本が売り切れていた」ことで自らの選択を肯定的に捉える流れはわかりやすいのですが、実生活では結果が必ずしも成功や満足につながるとは限りません。
そのため、「気づきに即応しよう」というメッセージが少し押しつけがましく感じられる読者もいるのではないでしょうか。
また、今回のような「物を買うか否か」という状況での教訓が、そのまま人生全体の行動指針になるかというと、少しスケールにズレがあるようにも思えました。
もっと切迫した選択や、人間関係、仕事上の重大な決断といった場面でこそ、「奇貨居くべし」の精神は試されるのではないかという気もします。
さらに言えば、「好機を逃すな」という言葉は、裏を返せば「常に何かを見逃しているかもしれない」という不安感を呼び起こすこともあります。
そうした焦燥感が過剰になれば、心が落ち着かず、むしろ不健全な状態に陥るリスクもあるのではないでしょうか。
行動の大切さを語る一方で、「今しないことも、時には選択である」という視点がもう少しあってもよかったように感じました。