物事の捉え方
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、西洋哲学の基礎を築いたとされる存在です。弟子にはプラトンがいて、その弟子にはアリストテレスがいます。
ソクラテスは日々、町に繰り出して人々と議論を交わし、より善く生きる道を探求しました。しかし、仕事をしないソクラテスに対して、妻のクサンティッペは夫を人前で罵倒したり、水を浴びせたりするなど、悪妻として有名でした。
ソクラテスは弟子たちに、「結婚したまえ、良妻を得られれば幸せになれる。悪妻を得れば、私のように哲学者になれるだろう」と語ったと伝えられています。
また、ソクラテスは妻との別れを勧めてくる友人には、「この人と上手くやっていければ、誰とでも上手くやっていけるだろう」と意に介さなかったのです。
物事は見る角度や捉える方向によって、様々な発見があります。視点を変えることで、マイナスの物事もプラスに転じることがあるのです。
一方向からだけでなく、多角的に物事を捉えることができれば、新たな境地を切り開くことができるでしょう。
今日の心がけ◆多角的に物事を捉えてみましょう
出典:職場の教養4月号
感想
この話には、物事をどのように受け止め、どのように意味づけるかによって、人生の見え方がまったく変わってくるという深い真理が込められています。
ソクラテスという歴史的な哲学者を通して語られる日常の人間関係——それも、最も近しい存在である「配偶者との関係」——を題材にすることで、哲学が突き放された思考実験ではなく、極めて人間的で実生活に根ざしたものとして描かれている点がとても興味深いです。
特に「悪妻を得れば哲学者になれる」という皮肉交じりのユーモアには、ソクラテスの器の大きさと、逆境を逆手に取る知恵のたくましさが現れています。
怒りや不満に飲み込まれるのではなく、それすら人生の糧として昇華していく姿には、真に成熟した人間の姿が映し出されています。
「この人と上手くやっていければ誰とでもやっていける」という言葉も、極端なようでいて実に本質を突いており、「誰かを変える」のではなく「自分がどう向き合うか」に焦点を当てたソクラテスの哲学的態度が伝わってきます。
「今日の心がけ」にある「多角的に物事を捉えてみましょう」というメッセージが、この話によって具体的かつ生き生きとした形で理解できます。
問題に見えることの中にも、気づきや学び、そして笑いすら見出せるのだという教えは、今を生きる私たちにとっても非常に有効であり、前向きに日々を過ごすための視野の広げ方を教えてくれます。
否定的な感想
この話が示す「多角的な捉え方」には、ある種のリスクや誤解も潜んでいると感じました。
たとえば、ソクラテスの「悪妻を得れば哲学者になれる」という言葉を、すべての困難を無理やり肯定的に解釈すれば良い、という風に受け取ってしまえば、それは時に問題から目を逸らし、必要な対処を先延ばしにする言い訳にもなりかねません。
また、配偶者との不和や苦しみを「修行」として受け入れる姿勢は、現代社会においては危ういバランスを孕んでいます。
精神的、あるいは身体的に苦しんでいる人にとって、「あなたの捉え方次第だ」と言われることは、さらなる負担となることもあるのです。
ソクラテスほどの知恵と精神的余裕を持てる人ばかりではないという現実も、考慮すべきです。
さらに、ソクラテスのユーモアは確かに魅力的ですが、それが他者を茶化すように聞こえる可能性もあります。
哲学者だからこそ許される表現かもしれませんが、言葉には常に受け手がいて、その解釈によっては皮肉や冷笑と受け取られることもあるでしょう。
そういった感受性への配慮も、「多角的に捉える」ことの一部として含まれていなければ、逆に偏った見方になってしまうのではないかと感じました。