お互いさま
「地獄で仏に会う」ということわざがあります。これは、自分が困っているときに思いがけず手を差し伸べてくれる人が現われることをたとえたものです。
Aさんは、出張に向かう途中の乗換駅でお手洗いに行きました。ホームに戻ると、カバンに入れていたはずのスマートフォンがないことに気づきました。
焦ってバッグの中を全部取り出して隅々まで探しましたが、見つかりません。Aさんは急いでお手洗いに戻り、探し始めました。
すると「どうかされましたか?」と、ある男性から声をかけられました。情を話すと「それは大変ですね」と言って一緒に探してくれたのです。
しばらくすると、男性が洗面台の下からAさんのスマートフォンを見つけてくれました。Aさんが何度もお礼を言うと、「困ったときはお互いさまですよ」と言って男性は立ち去りました。
Aさんは、自分も困っている人がいたら積極的に手助けをしようという思いを強くしました。
今日の心がけ◆人の役に立ちましょう
出典:職場の教養5月号
感想
この話を読んで、何よりも心に残ったのは「お互いさま」という言葉の温かさと、それが実際の行動として現れた瞬間の美しさです。
Aさんのように切羽詰まった状況では、冷静さを保つのも難しく、他人に頼る余裕すらなくなるものです。
そんな中で「大丈夫ですか」と声をかけ、一緒に探してくれる人が現れるというのは、単なる親切を超えて、人としての本質的な優しさや思いやりが表れていると感じました。
この男性の行動は、特別なことではなく、日常の中に潜む「善意」が形になったものです。
「困ったときはお互いさま」という言葉に彼の人間性がにじんでいて、押しつけがましくなく、それでいて深い温もりがあります。
こうした体験が、Aさんに「自分も誰かの力になりたい」という思いを芽生えさせたことも非常に意義深いと思います。
善意は連鎖するものだと、あらためて実感させられる話でした。
また、「今日の心がけ」にあるように、人の役に立とうとする意識は、日々の中でこそ磨かれるべきです。
目立たずとも、人知れず誰かを助けている場面がきっと私たちの周囲にもある。
そう思うと、自分も見過ごしていることがあるかもしれないと、少し背筋が伸びるような気持ちになりました。
否定的な感想
この話には一抹の現実感のなさを感じてしまう部分もあります。
Aさんのように、見知らぬ人が困っている状況で声をかけ、実際に助けるという行為は、理想的ではあるものの、現代の都市生活ではあまりにも珍しくなってしまいました。
それだけに、この話がどこか作り話のようにも感じられてしまい、現実との乖離を感じてしまいます。
また、「お互いさま」という言葉がもつ温かさを否定するわけではありませんが、それが全ての人間関係に当てはまるとは限りません。
誰かに親切にしても、それが返ってこないことも多く、むしろ利用されてしまうこともある。
理想と現実の間にあるギャップに対して、少し目を背けている印象も否めません。
「今日の心がけ」にあるような、人の役に立つ姿勢はとても大切ですが、それが時に「無理してでも人のために」といったプレッシャーになってしまうこともあるでしょう。
誰かを助ける余裕がないとき、自分を責める必要はないという視点もまた、同時に持つべきではないかと感じました。