新たな世界を切り拓く
日本の登山家、田部井淳子氏が女性として世界で初めて世界最高峰のエベレストへの登頂に成功して今年で五十年となります。
標高八八四八メートルのエベレストへの登攀は過酷であるため、それまでの成功者は男性のみでした。「体力的にみて女性には無理」と言われていたのです。
そのため、女性だけで挑む隊への理解はなかなか得られません。資金集めは困難を極め、遠征予算も満足とはいえない状態でした。入山後も、高山病で体調を崩す隊員が出たり、途中で雪崩に遭遇したりするなどのトラブルに見舞われます。
そうした厳しい状況を乗り越えて一九七五年五月十六日、隊員十五名の中から選ばれた田部井氏が見事に地上で最も高い地点に到達しました。
前例が無いことへの挑戦は、周囲にとってもあらゆる事象が初めてであり、理解を得るのは難しいのが当然です。しかし、そこで諦めてしまっては後には何も残りません。それまでの努力も水の泡と消えてしまいます。
困難な時こそ、諦めることなく前進する気持ちが大切といえるでしょう。
今日の心がけ◆困難な時ほど根気よく続けましょう
出典:職場の教養5月号
感想
田部井淳子氏のエベレスト登頂という偉業は、単なる登山の成功にとどまらず、社会的な価値観を揺るがす強いメッセージを持っていると感じました。
「女性には無理」と言われる環境の中で、その声に屈せず、自らの信念と仲間の力で道を切り拓いた彼女の姿には、まさに人間の可能性と意志の強さが凝縮されています。
資金面、体調、自然の猛威といった現実的な困難に加え、性別による偏見という無形の障壁をも突破した彼女の歩みは、今の私たちにとっても深い勇気と希望を与えてくれます。
特に印象的だったのは、「前例が無いことへの挑戦は、理解を得るのは難しいが、そこで諦めては何も残らない」という部分です。
未知の道を行く人間の孤独と、それでも進まなければならない使命感を思わせるこの言葉には、どんな分野にも通じる普遍的な真実があります。
今日の心がけである「困難な時ほど根気よく続けましょう」は、まさに田部井氏の姿そのものを象徴しており、今を生きる私たちにとっても重要な指針になると感じました。
否定的な感想
この話を読んでいる中で、田部井氏の偉業が語られる過程において、「個」の強さに焦点が当たりすぎているようにも思いました。
たしかに彼女は中心的存在でしたが、15名の隊員全体がいたからこそ成し得た成果であり、その集団的な努力や犠牲についてもう少し語られてもよかったのではないでしょうか。
たとえば高山病に苦しんだ隊員や、雪崩に巻き込まれた人々の状況やその後について、あまり触れられていないのがやや気になりました。
また、「女性には無理」と言われていた背景がややあっさりと流されている印象も否めません。
当時の社会的背景や構造的な差別がもう少し具体的に語られていたら、この挑戦がどれほど困難で意義深いものだったかが、より説得力を持って伝わったのではないかと思います。
偉業の称賛とともに、何がそれを妨げていたのかをしっかりと直視することも、後世にとっての教訓として重要なのではないでしょうか。