2025年5月24日(土) 自分の家の芝生は何色か

自分の家の芝生は何色か

「他人の物は自分の物より良く見える」という意味の諺、「隣の芝生は青い」は西洋の諺が元になっており、日本でも広く浸透しています。

人の考え方には、国境を越えて共通する部分があります。その根底には、自分の所有物の良さに気づけていないという点があるようです。

A氏は、東京のかっぱ橋道具街に買い物に行きました。そこで目にしたのは、海外からの旅行者が次々と包丁を購入する様子でした。

そのとき、過去に知人から聞いた「海外に住む娘から、日本の包丁は切れ味が良いから送ってほしいと言われた」という話を思い出しました。

私たちは自国で作られた包丁を当たり前のように使っていますが、他国の人々が買い求めるほど優れた道具だと、どれほどの人が認識しているでしょうか。

日本には、先人が知恵と時間をかけて作り上げた道具が数多くあります。その道具がどのように作られたのか調べたり、手入れをしたりすることで、身近な物の価値や美点に改めて気づけるのではないでしょうか。

今日の心がけ◆身近な物に関心を寄せましょう

出典:職場の教養5月号

感想

この話は、「隣の芝生は青い」という普遍的な感覚を出発点にしつつ、視点を内に向けて「自分の芝生の色」を見直すことの大切さを丁寧に描いている点が印象的でした。

A氏のかっぱ橋での経験を通して、日本製の包丁に対する外国人の関心が浮き彫りになり、それが逆に「当たり前」の中にある価値への再認識へとつながる展開がとても自然で説得力がありました。

特に、「他人の持ち物がよく見える」のは視点の問題であり、自分が普段目を向けていないだけ、という指摘は深く共感できました。

日常に埋もれて見落としがちな価値や魅力は、外からの評価によって浮かび上がることがあります。

日本の包丁や伝統的な道具がまさにその一例であり、「外国人が買うから価値がある」という他者視点から、自分自身の再評価に移る構造が美しいです。

「今日の心がけ」で示された「身近な物に関心を寄せましょう」という言葉は、自己の生活を見直す起点として非常に有効で、今後の意識の持ち方を変えるヒントになると思いました。

否定的な感想

この話の構成にはやや安定しすぎた印象も残りました。

「隣の芝生は青い」というテーマは確かに共感を得やすく、導入としても効果的ですが、その後の展開が予測しやすく、やや平板な印象を受けました。

A氏の体験も非常に象徴的ではあるものの、読者にとって「自分ごと」として深く刺さるには、もう少し踏み込んだ描写や具体性が欲しかったように思います。

また、日本の道具の良さが海外で評価されているという事実だけでは、「自分たちの価値に気づくべきだ」という論調がやや一方的に感じられる可能性もあります。

たとえば、身近な物の価値に気づくプロセスに「失敗」や「比較の中での迷い」といった、もっと人間的な揺らぎがあると、読者にとってリアルな気づきにつながったかもしれません。

「今日の心がけ」も、やや道徳的に響きすぎる部分があり、もっと柔らかく、日常に落とし込んだ言葉選びがあれば、より心に残ったのではないかと感じました。