海外旅行
Hさんが、長年の夢だった海外旅行の計画を立てたときのことです。
初めて異国の地で過ごすことに不安を覚えたHさんは、現地に住む知人の情報をもとに、治安や物価などを念入りに調べてから出発しました。
現地で外を歩く際は、治安の悪い場所や夜間の行動を避け、貴重品は肌身離さず持ち歩き、バッグは必ず手で押さえるなど十分な対策を行ないました。
異国の地で出合った壮大な景色や趣のある建造物に圧倒され、ホテルや街中での美味しい食事に舌鼓を打ったHさん。大きなトラブルもなく、あっという間に楽しい時間が過ぎていったのでした。
旅先で特に心に残ったのは、現地の人々の優しさでした。道に迷った時は丁寧に教えてくれるなど、事前に聞いていた情報にはなかった良い面もたくさん知ることができたのです。
帰国後、Hさんは事前準備の大切さを改めて肝に銘じるとともに、実際に現地へ行かなければ分からないことがあることを実感したのでした。
今日の心がけ◆準備を入念にしましょう
出典:職場の教養2月号
感想
Hさんの旅がこれほどまでに充実したものになったのは、単に運が良かったからではなく、臆病なほどの慎重さを土台に据えたからに他なりません。
初めての異国という未知の世界に対し、治安や物価を念入りに調べるという行為は、自分の身を守るためであると同時に、現地への敬意の表れでもあります。
十分な対策を講じたからこそ、Hさんの心には「安心という余白」が生まれ、目の前の壮大な景色や美味しい食事を心から楽しむ余裕が持てたのでしょう。
特に印象深いのは、徹底した自己防衛の先に、現地の人々の温かさという「想定外のギフト」を受け取っている点です。
私たちは情報過多の時代に生き、行く前からその場所を知った気になりがちですが、Hさんの体験は、データだけでは測れない血の通った交流こそが旅の真髄であることを教えてくれます。
入念な準備という「盾」を持っていたからこそ、彼女は心を開いて優しさを受け取ることができたのです。
「今日の心がけ」にある準備の重要性は、単にミスを防ぐためだけでなく、未知の感動を100%享受するための心の器作りなのだと強く実感させられます。
否定的な感想
このエピソードを別の角度から見つめると、Hさんの行動はあまりに「教科書通り」であり、管理された安全圏から一歩も外に出ていないという見方もできます。
もちろん安全は最優先事項ですが、情報を鵜呑みにし、リスクを徹底的に排除した旅は、ともすれば「確認作業」に陥ってしまう危険性を孕んでいます。
治安の悪い場所を避け、バッグを握りしめて歩く姿からは、現地の人々を「親切な隣人」として見る前に、まず「警戒すべき対象」としてフィルターをかけてしまっている心理が透けて見えます。
もしHさんがもっと無防備であったなら、あるいは予期せぬトラブルに見舞われていたなら、そこには準備された感動以上の、魂を揺さぶるような自己変革の機会があったかもしれません。
事前情報になかった現地の優しさに触れて驚いたという点は、裏を返せば、彼女が抱いていた事前のイメージが偏った偏見に基づいていた可能性も示唆しています。
準備に重きを置くあまり、旅の醍醐味である「偶然性」や「混沌」を切り捨ててしまうのは、少し勿体ない気もします。
効率的で安全な成功体験としての旅は、果たして本当にHさんの内面を深く揺さぶったのか。
予定調和の中に安住することの危うさを、この物語は逆説的に問いかけているようにも感じられます。
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