親の眼差し
日々、当たり前のように仕事をしている私たちですが、一人前に働けるようになるまでには、長い時間と多くの人の支えや協力があったことでしょう。
A子さんには、この春、大学を卒業して就職した息子がいます。その息子が初めて出社した日のことです。
朝、玄関に置かれた真新しい靴と革靴を見て、それまでまったく振り返ったことのなかった自分の就職時のことがはっきりと思い出されました。
緊張して家を出る自分を見送る両親の姿が目に浮かび、独り立ちする我が子の無事と幸せを祈る両親の気持ちと自分の気持ちが重なって感じられました。
息子が帰ってくると、初出社の話に花が咲きました。息子との会話の中で、A子さんは多くの恩人の中でも、その最初は両親であったことを実感したのでした。
人は、自分を支えてくれた人の存在に気づいた時、感謝の気持ちや優しさと共に、心強さが湧いてくるものです。働く力の源はここにあるのではないでしょうか。
温かな眼差しに包まれ、守られた感覚を思い出すひと時を持ちたいものです。
今日の心がけ◆お世話になった人を思い返しましょう
出典:職場の教養4月号
感想
この話を読んで真っ先に感じたのは、「親の眼差し」というタイトルがまさに内容全体を象徴しているということです。
A子さんが息子の初出社に際して、自らの過去を追体験するかのように思い出す場面は、とてもリアルで胸に迫るものがありました。
自分が受け取ってきた無償の愛や支えに気づく瞬間は、どこか心が震えるような、温かな痛みすら伴うもので、それを通して人は他者に優しくなれるのだと思います。
特に印象に残ったのは、真新しい靴と革靴に触れたくだり。物としては何気ないものですが、そこに込められた時間や思いがにじみ出ていて、それが記憶の扉を開くきっかけになるという描写が素晴らしいと思いました。
モノが語る感情というのは、やはり深く人の心に残ります。
「今日の心がけ」で示された「お世話になった人を思い返す」という言葉も、単なる感謝にとどまらず、自分が今ここにいることの背景を見つめ直す機会になると思います。
こういう瞬間を大切にすることで、働く意味や人との関わりの深さが、より鮮明に浮かび上がってくるのではないでしょうか。
否定的な感想
この話にはあまりにも理想化された側面が強く、現実の複雑さがやや見えづらくなっているようにも感じました。
例えば、すべての親子がこうした温かい眼差しを交わせるわけではありませんし、親の支えがない中で独力で進んできた人にとっては、少し疎外感すら覚える内容かもしれません。
また、A子さんの心の動きがあまりにもスムーズで、読者としてはもう少し葛藤や揺らぎが描かれていると深みが出たのではとも思います。
親のありがたみを感じる一方で、親に対する複雑な思い――たとえば反発や距離感、すれ違いといったものが一切排除されている点で、少し綺麗すぎる物語に見えてしまいました。
「働く力の源は、支えてくれた人の存在に気づくことにある」という言葉も、確かに真理の一つではありますが、それが絶対的なものとして語られてしまうと、自己肯定感や自律性を支えに頑張っている人々の努力が見えづらくなってしまう恐れもあります。
多様な背景を持つ人々の働く力をどう捉えるか、もう少し幅を持った視点があってもよかったかもしれません。