理解者と共に
「情けは人のためならず」ということわざがあります。これは、他人に親切にすればそれが良い報いとなって、結局は自分のためになるという意味です。
職場や家庭において、思い通りにならない状況が続くと、自己を正当化し、その原因を無意識に他者や社会に求める心が強く表われることがあります。
M氏はより良い会社を目指して業務改善に取り組んでいました。しかし、いくら頑張っても協力者を得られず、状況を変えることができませんでした。
次第に「私はこんなに頑張っているのに、なぜ協力してくれないのか」「頭が堅い人には理解できない」など、相手への責め心が強く表われてきたのです。
見かねた上司から「求めてばかりではうまくいかない。相手に何を与えたかが大切だよ」と諭された時、不安と不満ばかりだった自分を反省しました。
その後、心を入れ替え、挨拶を率先して行なうと共に、相手や会社の良い点を探し、褒めるように努めると、自然と理解者が増えていったのです。
思い通りにならない時こそ、相手に与える意識をもって取り組みたいものです。
今日の心がけ◆与える意識を高めましょう
出典:職場の教養5月号
感想
この話に込められた「与えることの大切さ」は、非常に共感を覚えるものでした。
特に、M氏が「自分がどれだけ努力しているか」ばかりに目が向いていた時には、周囲との関係がうまくいかず、孤独感さえ感じていたはずです。
しかし、上司の一言をきっかけに視点が変わり、「自分は何を与えられているか」という問いを持てたことで、ようやく状況が変わり始めたのだと感じます。
このように、物事がうまくいかない時こそ、自分の姿勢を見つめ直すきっかけになるという点が深く胸に響きました。
正直なところ、私はこれまで「情けは人のためならず」ということわざを、「人に情けを掛けて助けてやることは、結局その人のためにならない」といった少し冷たい意味だと誤解していました。
けれどもこの話を通して、ことわざの本来の意味──つまり「人に親切にすることは巡り巡って自分に返ってくる」という温かく前向きな教えであることに、改めて気づかされました。
M氏が挨拶や称賛といった小さな行動から始めた点にも、誠実さと実践力を感じ、少しずつでも周囲の信頼を得ていく過程には、人と人との関係性の真理が表れているように思います。
今日の心がけである「与える意識を高めましょう」は、対人関係における一つの重要な指針として、日々の行動にしっかり落とし込みたい言葉です。
否定的な感想
この話の中には「相手が理解してくれないのは自分の与え方が足りなかったからだ」という前提が強調されすぎているようにも感じました。
もちろん、与える姿勢は大切ですが、時には理不尽な状況や非協力的な態度が存在するのも現実です。
そうした環境において、すべての責任を自分の側にだけ求めるのは、過度な自己犠牲や自己否定につながりかねません。
M氏が最初に抱いた「なぜ協力してくれないのか」「理解されない」という感情も、人として自然なものであり、それ自体を否定するような描き方には慎重であるべきだと思います。
上司の言葉に気づきを得たことは良かったとしても、「与えさえすれば理解者が増える」という結末は、ある意味で美談に過ぎる側面もあるのではないでしょうか。
人間関係は一方的な努力だけでは成り立たず、時には相手の姿勢や価値観との摩擦をしっかり受け止め、相互理解を図る必要もあると感じます。
与えることと、相手との対話や交渉とのバランスをどう取るかが、本当の意味での成熟した人間関係だと思います。