初心忘るべからず
室町時代初期の猿楽師で、能を大成させた世阿弥は著書『風姿花伝』や『花鏡』などに多くの名言を残しています。
その一つに「初心忘るべからず」があります。多くの人は「物事を習い始めた時の純粋な心を忘れてはならない」と理解しています。
しかし本来の意味は、「新しく始めることには迷いや困難を感じるが、それをどのように乗り越えたかという経験を忘れるな」というものです。
K氏は初めて任されたプロジェクトに不安を覚えましたが、先輩からのアドバイスで、周囲への「明るい挨拶」を徹底しました。すると人間関係が円滑になり、多くの協力を得て成功させることができました。
不安にとらわれることなく、溌溂と仕事に取り組んだK氏は、それ以来、新しい挑戦のたびに期待感を持ち、経験を積み重ねていると言います。
日常の業務の中で埋もれてしまう「初心」を思い起こして、喜んで仕事に当たることで自己を成長させましょう。
今日の心がけ◆経験を積み重ねましょう
出典:職場の教養5月号
感想
「初心忘るべからず」という言葉に触れたとき、私自身も長い間、「最初の気持ちを忘れてはならない」という意味で受け止めていました。
新鮮な感動や、無垢な向上心を持ち続けることが大切だと感じていたからです。
しかし今回の話で、その解釈がさらに奥深いものだと知り、目が覚めるような感覚を覚えました。
初心とは単なる心の状態ではなく、不安を抱えながらも一歩を踏み出し、それを自分なりに乗り越えた「体験」そのものなのだという気づきは、非常に説得力があります。
K氏の例が語るように、新しいことに対する戸惑いや恐れを、どのような行動で打開したかという過程を覚えておくことは、次なる挑戦の支えになります。
そして「明るい挨拶」という誰もができる行動が、人間関係を変え、協力を引き出す力になったという事実は、日常の中の誠実さや姿勢の大切さを思い出させてくれました。
「経験を積み重ねましょう」という今日の心がけも、単なるスキルの話ではなく、自分自身の成長史としての経験に光を当てる姿勢が含まれているのだと感じます。
純粋な心と経験の記憶、その両方を大切にしていきたいと思わされました。
否定的な感想
「初心忘るべからず」の解釈を本来の意味へと修正する過程が少々一方的で、一般的な解釈をあまりに否定的に切り捨てている印象も受けました。
確かに、経験を記憶することは重要ですが、だからといって“純粋な心を忘れない”という意味が価値のないものになるわけではないはずです。
むしろその二つは並立できるものであり、状況に応じて両方が大切になってくるはずです。
また、K氏の成功例がやや理想的すぎて、挨拶一つで人間関係が円滑になるという点には、現実にはもっと複雑な要素があると感じます。
不安を乗り越えるには、時に葛藤や衝突も避けられません。
そこに触れず、ポジティブな側面だけが強調されていると、少し表面的な印象にもなります。
初心を忘れずに、かつ現実的な困難にもしっかり向き合う姿勢の重要性ももっと伝えてほしかったです。