2025年6月18日(水) 断る勇気

断る勇気

建築士のMさんは長年設計事務所に勤務していましたが、退職し一念発起して、自身が代表を務める設計事務所を開業しました。開業当初は、顧客からの無理な注文があっても、何とか納期に間に合うように業務を進めていました。

ある日、飲食店の店舗設計の依頼がありました。しかし、建築スケジュールや人員等を考慮すると、どう見積もっても希望の納期に間に合いません。

Mさんは顧客に対して「申し訳ありません。弊社ではこの納期に間に合わせることができないので他の会社にお願いしてもらえますか?」と依頼を断りました。

Mさんは〈この顧客からは今後依頼は来ないだろう〉と思っていましたが、後日同じ顧客から別の仕事の依頼が来たのです。理由を聞くと「できないことはできないとはっきり言ってくれたことで信頼できる会社だと思った」と言います。

お客様の要望に対してベストを尽くすことはもちろんですが、伝えるべきことを曖昧にして業務を進めると、思わぬトラブルにもつながりかねません。自分の意見を相手にはっきりと伝えて、業務を確実に進めていきたいものです。

今日の心がけ◆自分の意見をはっきり伝えましょう

出典:職場の教養6月号

感想

Mさんの行動からは、誠実さとプロとしての矜持が強く伝わってきます。

「できないことはできない」と言えるのは、単に強く断ることではなく、自分の能力や限界をきちんと把握し、それに責任を持つ姿勢の現れです。

このような姿勢は、顧客との信頼関係を築くうえで非常に重要です。

特に建築という大きな責任を伴う仕事において、曖昧な対応は致命的なミスにつながりかねません。

また、「断ること」が信頼の始まりになるという逆説的な展開には深く感銘を受けます。

商業的な場面では「イエス」と言うことが優先されがちですが、本当に誠意のある対応とは、顧客の期待に無理に応えようとすることではなく、現実的な判断を伝えることなのだと再認識させられました。

今日の心がけ「自分の意見をはっきり伝えましょう」は、単なる自己主張のすすめではなく、自分の価値観と相手の期待をすり合わせるための誠実な対話の第一歩として捉えるべきでしょう。

Mさんのような姿勢は、多くの職業人が見習うべき姿だと感じました。

否定的な感想

Mさんの判断が常に「正解」とされるような描かれ方には、やや理想化の匂いも感じます。

実際のビジネスの現場では、「断る」ことが必ずしも信頼につながるとは限らず、それが即座に取引停止に直結するケースも珍しくありません。

信頼関係は長期的な積み重ねの中で育まれるものであり、一度の誠実な対応が全てを好転させるという描写には少々リアリティを欠く印象も受けました。

また、「断る勇気」は確かに大切ですが、それを行動に移すには一定のキャリアや自信、そして経済的な余裕が必要です。

開業間もない設計事務所が、厳しい納期の依頼を断ることには、大きなリスクが伴います。

Mさんが成功したのは、結果的に相手が誠実さを評価してくれたからに過ぎず、すべてのケースでこのような好転が見込めるわけではありません。

「意見をはっきり伝えること」は重要ですが、それが即ち「断ること」と短絡的に結びつくのではなく、交渉や代替案の提示など、もっと柔軟なコミュニケーションのあり方も考慮すべきだと感じました。