共感が導く成長
職場には様々な価値観や行動特性をもつ人がいます。
Aさんの班には十数名の社員がいて、働き方を観察すると、それぞれの特徴が明確に表われていました。例えば、状況の把握が早く、段取りを的確に組み立てるBさんは、業務の進行がスムーズで判断に迷いが少ないため、適切に対応する場面が多くみられます。
一方で、慎重に物事を考える傾向のあるCさんは、決断に時間を要することがあるものの、仕事に粘り強く向き合い、最後までやり遂げる姿勢が特徴です。
こうした個々の特性を踏まえて指導してきたAさんでしたが、期待した成果にはつながらず、次第に育成の難しさを痛感するようになりました。その状況を振り返る中で、Aさんは自分が部下の短所ばかりに目を向け、相手を変えようとする意識が強くなっていたことに気づきます。
そこで、まず各人の状態をそのまま受けとめる姿勢を大切にし、関わり方を見直すことにしました。その結果、部下たちにも徐々に行動面の改善がみられ、次第にチーム全体にも建設的な雰囲気が広がっていったのです。
今日の心がけ◆ 相手の強みを見つめて活かしましょう
出典:職場の教養5月号
感想
このお話を読んで、人を育てる立場にある人が必ず一度はぶつかる「正論の壁」と、そこからの脱却のプロセスがリアルに描かれているなと感じました。
Aさんは当初、Bさんの手際の良さやCさんの粘り強さといった特徴をちゃんと把握していましたよね。
それなのに成果に繋がらなかったのは、無意識のうちに「自分の理想とする型」に二人を当てはめようとしていたからではないでしょうか。
仕事ができる人ほど、相手の足りない部分が目についてしまい、「もっとこうすれば早くできるのに」「なぜここで決断できないのか」と、短所を埋める教育に走ってしまいがちです。
でも、変えようとすればするほど相手は心を閉ざし、育つものも育たなくなってしまいます。
Aさんが素晴らしいのは、育成の停滞を部下のせいにせず、自分の内面、つまり「相手を変えようとする傲慢さ」に気づいてアプローチを変えた点です。
まずは「今の状態をそのまま受け止める」という、一見すると諦めにも似た受容の姿勢を取ったことで、部下の心に安心感が生まれたのだと思います。
人間は、自分の存在ややり方を認められて初めて、自発的に変わろうと思える生き物なのかもしれません。
コントロールを手放すことが、結果として最大のコントロールになるというパラドックスを感じ、日々の人間関係にも深く通じる知恵だとしみじみ思いました。
否定的な感想
このエピソードが美談として綺麗にまとまりすぎている点に、少し現場目線での疑問や危うさも感じてしまいました。
Aさんが関わり方を変えたことで部下に改善が見られたのは幸運なケースであり、現実の組織マネジメントはここまでシンプルにはいかないことが多いのではないでしょうか。
例えば、Cさんの「決断に時間がかかる」という特性は、裏を返せば納期遅延のリスクを常に孕んでいます。
いくらその状態を丸ごと受け止めようと努めても、スピードが求められる現代のビジネス環境では、受け止めている間にプロジェクトが頓挫してしまう実害も出かねません。
強みを活かすことは大前提ですが、短所の放置がチームの足を引っ張る場合、やはり毅然とした指導や仕組みでのカバーが必要です。
また、この物語はリーダー側の心構えの変化だけに焦点を当てていますが、部下の自立性や本人のモチベーションに依存しすぎている印象も受けます。
上司が態度を軟化させたことで、部下が「今のままでいいんだ」と現状維持に甘んじてしまうリスクには触れられていません。
精神論としての「受容」や「強みを見る」という美辞麗句に終始するのではなく、個々の特性をどのように具体的な業務配置やシステムに落とし込んで成果を出したのかという、客観的で再現性のあるロジックが見えないと、実際の職場での実践は難しいのではないかと感じました。
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