報告しにくい理由
四十代のNさんが洗車をしていたとき、後部座席のシート下から小学校六年生の娘のテスト用紙が出てきました。結果は思わしくなく、塾にも通い、家では勉強している様子を見ていただけに、Nさんは、娘に事情を尋ねました。
娘は「お父さんに見せるのが怖くて隠した」と打ち明けました。Nさんは、一瞬、困惑しましたが、会社で起きた出来事が脳裏をよぎります。
その前日、新入社員のTさんが、お客様からのクレームを上司に報告せず、問題を大きくしてしまったのです。その際、NさんはTさんを呼び、厳しく注意を与え、再発防止を指示していました。
しかし娘の姿とTさんの行動が重なり、自分のこれまでの接し方が、相手に「失敗を隠したい」「報告しづらい」と思わせていたのではないかと気づき、反省したのでした。
それ以来、Nさんは意識して社員に挨拶や声かけを行なうようになりました。安心して話せる関係を築くことが、問題を未然に防ぐ第一歩となるのです。
今日の心がけ◆安心して話せる関係を築きましょう
出典:職場の教養7月号
感想
この文章を読んで、とても印象に残ったのは、問題そのものではなく、「なぜ相手は隠そうとしたのか」という視点にNさんが気付いたことです。
娘がテストを隠したことも、新入社員のTさんがクレームを報告しなかったことも、結果だけを見れば注意されるべき出来事です。
しかしNさんは、自分を正当化するのではなく、「自分の接し方に原因はなかっただろうか」と考えました。この姿勢に、人として成長し続けるために大切な謙虚さを感じました。
職場でも家庭でも、信頼関係は相手を叱る回数ではなく、「失敗しても相談できる」と思える安心感によって築かれるものなのだと思います。
誰でも失敗は避けたいものですが、本当に怖いのは失敗そのものではなく、失敗を隠さなければならない空気が生まれることです。
その空気が広がると、小さな問題が大きな問題へと発展してしまいます。
この文章は、その悪循環を断ち切るためには、日頃の挨拶や何気ない声掛けといった小さな積み重ねが大切であることを教えてくれているように感じました。
また、家庭での出来事が仕事での自分を見つめ直すきっかけになっている点にも共感しました。
私たちは仕事と家庭を別々に考えがちですが、人との向き合い方という本質は共通しています。
相手が安心して本音を話せる環境をつくることは、相手のためだけではなく、結果として組織や家族全体を守ることにもつながるのだと改めて考えさせられる内容でした。
否定的な感想
この文章は分かりやすい構成ですが、娘がテストを隠した理由と、新入社員が報告をしなかった理由をほぼ同じ構図として扱っている点には少し違和感を覚えました。
子供と社会人では立場や責任、置かれている環境が異なるため、同じ心理だけで説明するには少し無理があるようにも感じます。
それぞれの背景の違いにも少し触れられていれば、より納得感のある内容になったのではないでしょうか。
また、Nさんが反省した後の変化として「挨拶や声掛けを行うようになった」とありますが、それだけで安心して話せる職場になるとは限りません。
相手の話を最後まで聞く姿勢や、報告を受けた際の受け止め方、失敗を責め過ぎない対応など、継続的な関わりも重要です。
その部分まで描かれていれば、「安心感」がどのように育まれるのかが、より具体的に伝わったように思います。
さらに、物語全体としてNさんの気付きがやや短時間で描かれているため、心境の変化が少し急に感じられました。
反省に至るまでの葛藤や、自分自身の過去の言動を振り返る場面がもう少し丁寧に描かれていれば、読者もNさんの変化により深く共感できたのではないかと思いました。
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